イベリアトゲイモリ

Pleurodeles waltl

1時限目-イベリアトゲイモリの紹介

学名Pleurodeles waltl(プレウロディールス ウォルツゥル)

英名:Iberian ribbed newt(イベリアンリブドニュート)またはSpanish ribbed newt(スパニッシュリブドニュート)

分布:名前が示すとおり、ヨーロッパのイベリア半島(スペインとポルトガル)、一部はアフリカ大陸の北部に住んでいます。このため、スペインイモリと呼ばれることもあり、流れの緩やかな小川や池、沼のようなところに住んでいるようです。これらの原産地では野生個体の数が減少していて、生息環境を保護する必要があると言われています。

大きさ・体の特徴:イベリアトゲイモリは、全長30 cmにもなる世界最大のイモリです。体の色は濃いオリーブ色から黒褐色で、体全体に黒いブチ模様があります。また、歳をとった個体ほど色が濃くなっていく傾向があります。危険を察知すると、肋骨(あばらぼね)に沿ってあるオレンジ色のスポットから針のように細く尖った肋骨の先端を突き出し、身を守る行動をとります。お腹側は、明るい黄土色に黒い模様があるものや、色の薄い斑点がある個体がいます。体の割に手足は細く短いので、陸上を歩くのはあまり得意ではありません。

温暖で四季のある南ヨーロッパに生息しているため、冬の寒さには強いものの、日本の夏の暑さは苦手のようです。両生類研究センターでは、1年間を通じて約25℃に保った水槽の中で飼育しています。

餌・食べ物:野生のイベリアトゲイモリは主にミミズや昆虫などの動物性の餌を食べています。両生類研究センターで飼育されている個体は両生類用の配合試料(ナマズなど肉食魚の餌と同様のもの)やコオロギを食べて生活しています。

2時限目-イベリアトゲイモリの産卵

ここでは、両生類研究センターで飼育されている個体について解説をします。

卵から孵化したイモリは1年程度で全長15〜20 cmの成体となり、繁殖が可能になります。

オスのイモリはスリムなシルエットで、胴体に比べて尾が長いです。腕には、交配するときにメスを抱えるためのコブがあります。メスのイモリは卵をもっているため、お腹はふっくらとしています。また、オスに比べて尾は短いです。

オスとメスはあらかじめ交尾を行い、その後にメスは体内で受精させた卵を産みます。

成熟したメスのイモリでは、水槽の水を換えた(特に冷たい水)次の日に産卵することが多いです。これは、自然界で春がきたことを知らせる雪解け水の流れ込みと勘違いしていると考えられています。

1匹のメスは1度に数百個の卵を産むことができます。透明なゼリーに包まれた卵は粘着性があるため、水槽の底や壁に張り付きます。メスはこのような産卵を2週間から3週間ごとに、一年中繰り返すことができるので、1年間に生まれる卵は数千個にも達します。

成体の写真。上がメス、下がオス。
産卵した後の様子

3時限目-イベリアトゲイモリの色素変異体(体の色が変化したイモリ)

イベリアトゲイモリは、アマガエルのように周囲の色に合わせて体色を変えることはできません。両生類研究センターには通常の体色(野生型という)に加えて、2種類の色素変異体が飼育されています。

  1. 野生型:自然界に見られる体色のイベリアトゲイモリ。色の濃さや模様に個体差はありますが、おおむね焦げ茶色から濃いオリーブ色をしています。

2. アルビノ変異体:黒い色素(メラニン)を合成するために必要なチロシナーゼ遺伝子が機能しないイモリ。イベリアトゲイモリの場合、メラニン色素を欠いた色素細胞は白色色素細胞になるため、体色はクリーム色となり、血管も透けてはいません。黒い色素を作ることができないので、白い卵を産みます。

チロシナーゼ遺伝子の機能によりメラニン色素を合成する点は、私たちヒトと共通しています。

3. リューシスティック変異体:体の表面にあるはずの色素を作る細胞がなくなってしまったイモリです。皮膚が透けて血管が見えるため、体の色はピンク色になります。皮膚の色素を作る細胞がないだけなので、眼は少し黒くなり、卵は野生型と同じ黒い色をしています。

アルビノイモリの卵(上の写真)と野生型イモリの卵(下の写真)。自然界では黒い色は保護色として機能すると考えられています。研究室の中では、黒い卵、白い卵どちらも同じように孵化します。